2013年01月08日|編集:福田
交通手段や通信手段が発達した現在、特に先進国では昔に比べて「歩く」という動作が減少しています。厚生労働省による「平成22年国民健康・栄養調査」によると、成人1日あたりの平均歩数は、男性7,136歩、女性6,117歩で、同省が掲げる“人生を豊かに過ごす”ための目標値である「1日平均1万歩以上」をかなり下回っています。
人間の身体の機能は、使わないでいるとどんどん衰えてしまいます。病気やケガがきっかけで長い間寝たきりになってしまうと、歩く前にリハビリが必要になるでしょう。また、宇宙飛行士を例に挙げると、無重力状態の宇宙では、体に負荷がかからず、運動をしないと筋肉が萎縮し運動能力が低下するのだそうです。
このように、身体を動かす基本である、「歩く」という日常の当たり前の運動が減少すると、筋力の低下を招き、さらには骨も細く弱くなっていくということが分かっています。また、歩かずに運動不足であることに加えて食べ過ぎの生活を送ることで、エネルギーとして消費されない栄養が脂肪として蓄積され、さまざまな生活習慣病やメタボリックシンドロームを引起こすことになるのです。
日本人の寿命は、感染症などが減ったことにより戦後急速に伸びましたが、一方でがんや循環器病(心臓病や脳卒中)などの生活習慣病が増加してきました。厚生労働省は、国民のQOL(Quality of life:生活の質)を高めるために「健康日本21」というプロジェクトで身体活動・運動による健康づくりを推進しています。
その中で重視されているのが「日頃から歩くこと」。ウォーキングには、脂肪燃焼効果をはじめ、血行促進、筋力や持久力の維持・向上、骨を丈夫にする、気分転換などさまざまな効果が期待できます。
ウォーキング、水泳、サイクリングなど、酸素を大量に取入れながら筋肉を動かす有酸素運動は、重いものを持上げたり、全力疾走したりするような瞬発的な運動よりも脂肪が燃焼されやすいことが分かっています。その中でも、腰や太もも、ふくらはぎの筋肉をしっかり使い比較的長時間行えるウォーキングは脂肪燃焼に非常に効果的といわれています。
歩くことにより脚の筋力がポンプの働きをして血液の流れを良くします。また、有酸素運動をすると、多くの酸素を筋肉に届けるために血の巡りが良くなります。血行が促進されると血行障害による病気のリスク回避に役立つほか、新陳代謝も高まり、老廃物の排出や免疫力の向上にもつながります。
腕を振ってウォーキングすることにより腕や胸、背中の筋肉も使うことができ、脚だけでなく全身運動になります。定期的なウォーキングを続けたり、運動負荷を少しずつ増やしたりすることで、心肺機能や筋力の維持・向上が期待できます。
骨量は20代がピークで、その後は年齢とともに減少傾向をたどります。骨粗しょう症や骨折の予防に、カルシウムやビタミンDの摂取が良いとされていますが、適度な運動も効果的です。骨に圧力がかかると骨芽細胞が刺激され骨の形成が促進されるのです。
生活習慣病の予防や改善に欠かせないのが運動不足の解消です。ウォーキングは速度や歩行距離などの運動負荷を調整することで、体力のレベルや目的に合わせて簡単に行うことができる運動です。また、血行促進、心肺機能向上、脂肪燃焼効果などが期待できるので生活習慣病の予防や改善に最適な運動といえます。
ウォーキングをすると脚の筋肉から大量の情報が神経を伝わって脳に届きます。歩くことで、視覚、バランス感覚、触覚、聴覚などさまざまな感覚が働き、脳内ホルモンが分泌されます。このホルモンの働きにより、体が目覚める、やる気が出る、集中力が高まる、リラックスした気分になる、ストレスが発散できるなどポジティブな感覚を得ることができるのです。この脳への刺激が精神的な若さや心の健康を保つといえます。
さまざまな効用があるウォーキングですが、悪い姿勢や不自然な歩き方で行うと、期待される効果が出ないばかりか、体を痛める原因にもなります。まずは正しい姿勢と良い体の動かし方を身につけましょう。正しい姿勢を作るには、へその下あたりにある丹田と呼ばれるところに力を入れること。ここに力が入ると上体が前後左右にぶれたり、猫背やそり腰になったりしにくくなります。良い体の動かし方は以下のポイントを参考に、実際に歩いて体で覚えていきましょう。
・ 頭は揺らさずしっかりと
・ 目線はまっすぐ
・ 呼吸は自分のリズムで無理せず、意識せず
・ 肩は力を抜いてリラックス
・ 肘はやや曲げて腕を大きく振ります
・ 腰の回転で歩幅を広げましょう
・ ひざをのばしてかかとから着地します
・ 体重を親指の付け根に移動させ、つま先で大地をキック
※ こちらのページでウォーキングフォームのポイントがイラスト付きで解説されています。
⇒ 『歩く時のポイント』(厚生労働省)
(出典:厚生労働科学研究循環器疾患等総合研究事業「糖尿病予防のための戦略研究」)
ウォーキングの前後に軽い体操やストレッチをすると、ケガを予防し疲労回復や筋肉痛軽減のメリットがありますのでぜひ行ってください。特に太ももや足首、アキレス腱は痛めやすい部分なのでしっかりストレッチをします。
ウォーキングは足を使う運動ですからシューズ選びは大切です。いろいろなタイプのウォーキングシューズがありますので、以下のポイントを参考に自分にあった靴を選びましょう。靴を購入する際には、必ず両足履いてチェックすることが大切です。
・ 足全体を締め付けない
・ 指先に指が動かせる程度の余裕がある
・ 土踏まずの辺りは、ひもなどでしっかり固定できる
・ かかとの部分がしっかりと包み込まれている
・ 動きにあわせて靴底がしなやかに曲がる
・ ソールは指の付け根部分がよく曲がり土踏まず部分は曲がらないもの
・ かかとの部分の靴底は少し広めで十分にショックを吸収できるもの
気軽に始めることができ、さまざまな効果が期待できる有酸素運動として人気が高いウォーキング。健康づくりやダイエット、トレーニング、レジャーなど、目的にあわせていろいろなスタイルや運動強度を選ぶことができます。ここでは普通のウォーキングとひと味違った特殊なウォーキングについてご紹介します。
水中で泳がずに歩く、アクアフィットネスと呼ばれる運動の一つです。水の中では体が軽くなり脚にかかる衝撃が大幅に軽減されるので、脚やひざを痛めて普通のウォーキングが難しい人も比較的安全に行うことができます。
2本のポール(ストック)を使って歩行運動を補助し、運動効果をより増強するフィットネスエクササイズの一つです。普通のウォーキングと違い、上半身の筋肉をより積極的に使い、ひざや腰への負担が少ないといわれます。
雪の上をスノーシューという最新型の西洋かんじきをつけて歩きます。雪がクッションとなってひざへの負担が少ないことが特徴です。雪の上をのびのびと歩くことでリフレッシュでき、ウインターレジャーとして注目されています。
ウォーキングとジョギングの中間的な位置づけで、ジョギングの3分の1程度の負荷をかけて歩くスポーツです。有酸素運動として一番効果が高い心拍数を目安に、普通のウォーキング速度の1.5倍程度で歩きます。
人生80年といわれる時代です。いかに多く歩くかということよりも、いかに長く続けられるかということを目標にしましょう。ウォーキングタイム以外にも、新聞を取りにいく、ゴミを捨てにいく、階段を使うなど、日常の生活の中で、できるだけ歩くことを意識して習慣にしてみてください。正しい歩き方を身につけて、それを日常生活の中に積極的に取り入れることができれば、体はもとより心の健康も長く維持していくことができるでしょう。
このコーナーでは、健康に関する一般的な情報をご紹介しております。個別の症状や検査結果等につきましてはご投稿いただいても、弊社から回答をさしあげることはできません。あしからずご了承ください。
参考文献:『今日から歩く』中央大学体育学部教授・医学博士 湯浅景元監修 (大和書房)
執筆:ファンドリッチみどり(ライター/薬剤師)