2013年04月24日|編集:福田
日本人の2人に1人が感染しているといわれるヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)。胃の中に住み着く細菌で、胃炎や潰瘍、胃がんなどの大半がこの細菌によって引起こされることが分かってきました。胃の中は強い酸性であるため、細菌は生息できないと長い間考えられてきましたが、1980年代、オーストラリアの2人の医師によってピロリ菌が発見されたことにより、胃の病気の常識が根底から変わりました。
ピロリ菌はらせん状菌で数本の鞭毛(べんもう)を持ち、これを使って胃の中を移動します。他の細菌は酸性の環境では死滅しますが、ピロリ菌はアンモニアを発生させて胃酸を中和し、胃粘膜組織で増殖していきます。
いったん感染すると、通常一生の間、胃の中に住み着くピロリ菌。ピロリ菌に最も感染しやすいのは、胃酸を分泌する機能がまだ十分に発揮できていない乳幼児で、成人になってからの感染もまれにあるようです。感染経路はまだ十分に分かっていませんが、食べ物や飲み物から感染しやすく、また、上下水道の普及率が低いと感染しやすくなり、発展途上国での感染率が高くなっています。なお、日本では、60歳以上の人の70%以上が保菌しているといわれています。
ピロリ菌に感染していても、症状が出る方と、出ない方がいます。感染してもほとんどの方は症状が表れないようですが、数%の人が、以下のさまざまな消化管の病気を引起こし、症状を進行させます。
慢性化している胃炎の大半はピロリ菌への感染が原因です。慢性胃炎の状態が何年も続くと、胃粘膜が次第に荒れてきて萎縮性胃炎に変化し、胃がんのリスクが高くなります。
ピロリ菌がどのように作用して潰瘍の原因になるかははっきりと分かっていませんが、潰瘍患者の90%以上がピロリ菌に感染しています。ピロリ菌が発見されるまで、潰瘍は再発するものと考えられてきましたが、ピロリ菌の除菌治療をすると潰瘍の再発率が大幅に減少します。
粘膜層が非常に薄くなり、胃がんになる危険性が4~10倍に増加するといわれるのが萎縮性胃炎です。この病気の大半はピロリ菌への感染が原因です。除菌をすることでこの病気にかかるリスクが減ります。
1994年、世界保健機関(WHO)(*1)は、疫学的調査からピロリ菌を発がん性物質と認定しました。ピロリ菌を除菌することにより胃がん発生率が1/3に抑制され、胃がん予防に効果があると証明されています。
(*1) ピロリ菌を発がん性物質と認定したのは、世界保健機関の下部組織「国際癌研究機関」です。
感染しているだけでは自覚症状のないピロリ菌。それでは、どんなときにピロリ菌感染の検査を受けたらよいのでしょう?なんとなく胃の具合が悪い状態が続く方は、医師に相談してみましょう。胃潰瘍や十二指腸潰瘍と診断された方は、健康保険を適用してピロリ菌感染の有無を調べることができます。人間ドックなどの検診でも、希望すれば自費で検査を受けることが可能です。
ピロリ菌に感染しているかどうかを調べる検査は大きく2つに分けられます。
・ 内視鏡を使って、胃粘膜の一部を採取し、ピロリ菌の有無を調べる方法
・ 内視鏡を使わずに、尿検査や血液検査、呼気検査などを行う方法
ピロリ菌の検査で感染が確認されたら、除菌をするかどうかを決めることになります。2009年、日本ヘリコバクター学会が「感染者全員の除菌を強く勧める」というガイドラインを発表しました。病気予防という観点からすると、ピロリ菌保持者全員が治療対象になるといえます。それでも以前は、健康保険が適用される除菌治療対象者は「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」など特定の病気がある人に限られており、ピロリ菌の除菌のみの場合は保険適用外でした。しかし、2013年2月22日に「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」だけではなく、「慢性胃炎」と診断された場合(*2)の除菌治療も健康保険の適用対象となったため、今までよりも除菌を行いやすくなったと言えます。
実際に除菌するかしないかは、医師とよく相談して決めましょう。
(*2) 内視鏡検査によりピロリ感染胃炎と診断される必要があります。
ピロリ菌の除菌治療は意外に簡単で、以下の3種類の薬を1日2回、1週間服用するだけです。
(1) 胃酸の分泌を抑える薬
(2) ペニシリン系の抗菌薬
(3) マクロライド系の抗菌薬
しかし、薬を正しく飲まなかったり、途中で止めたり、治療中に飲酒・喫煙をしたりすると、除菌の成功率が下がってしまいます。一時的な副作用として、軟便、下痢、味覚障害などが現れる場合もあります。
1次除菌から1ヵ月以上経過してから、除菌が成功したかどうか判定します。薬を正しく服用すれば約8割が成功しますが、失敗した場合は、薬を変えて2次除菌を行います。
ピロリ菌に効くとされる食品は、一部のヨーグルト(LG21乳酸菌など)、マヌカハニー(ハチミツ)、ココア(ココアの脂肪成分)、ブロッコリーの新芽(スプラウト)、ワサビの葉などいくつか挙げられます。ピロリ菌保有者は、これらの食品によるピロリ菌抑制作用を利用して胃の調子を整えるセルフケアを行いつつ、定期的に検査を受けることが大切です。機能食品のみに頼らず、除菌に踏み切るタイミングなど、医師とよく相談しましょう。
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参照:「胃の病気とピロリ菌」浅香正博 (中公新書)
除菌前ヨーグルトの効果 東海大学総合内科の高木敦司氏らの研究
執筆:ファンドリッチみどり(ライター/薬剤師)